コラム

行動デザイン(ナッジ)とは?取り入れる際のポイントや従来手法との違いも解説

「行動デザイン(ナッジ)という言葉は聞くけれど、活用方法が分からない」と悩む人は多くいます。この記事では、行動デザインの意味や導入時のポイントを解説します。経済学をはじめとした従来手法との違いも紹介しますので、行動デザインの導入にお悩みの方はぜひ参考にしてみてください。

行動デザイン(ナッジ)とは?

行動デザイン(ナッジ)とは選択肢を奪ったりご褒美や罰則などのインセンティブを大きく変えたりすることなく、対象の行動を変える手法のことです。主にマーケティング領域で使われます。

「行動デザイン」という言葉は、2013年に博報堂デザイン研究所が商標登録した造語だとされています。しかし、さまざまな組織や会社が似通ったナレッジを発表しているものの、定義を明確にした文献はないため曖昧に扱われているのが現状です。

 行動デザイン(ナッジ)が注目されているワケ

行動デザインという言葉が注目されている大きな理由は「ナッジ」という概念がノーベル経済学賞を受賞したこと。

ナッジの理論を生み出したのは、アメリカ合衆国の経済学者でシカゴ大学教授であるリチャード・セイラー氏です。彼によると、ナッジの理論は以下のように定義されています。

選択を禁じることも、経済的なインセンティブ を大きく変えることもなく、人々の行動を予測 可能な形で変える選択アーキテクチャーの あらゆる要素

つまり、人の心のクセを利用して、人の選択に影響を与えようとする手法のこと。

このナッジの定義が行動デザインと非常に似通っていたため「行動デザイン」という言葉が日本でも注目を浴びるようになったのです。

 

行動デザイン(ナッジ)がマーケティングに必要とされる理由

近年行動デザインがマーケティング領域に必要とされている大きな理由は、インターネットが普及し、20世紀に生まれたマーケティング手法と21世紀の購買行動のズレが大きくなったことです。

いま一般的に使われているマーケティングのフレームは基本的に「マスマーケティング」という20世紀に生み出された手法で、大量生産・大量消費を前提として作られてます。

しかし、インターネットが普及してほとんどの人がスマホを持つようになったため、現場に行ったり現物に触れたりしなくてもPCや動画で疑似体験ができるようになりました。

そのため「モノを買う」ことの価値が徐々に低下し、大量消費を前提としたマーケティングが徐々に現代社会と噛み合わなくなってしまったのです。

とはいえ、商品を探す・出会う・クリックする・レジに持っていくなどの行動を実際に起こすことができなければ商品は売れず、市場が縮小していくばかり。

だからこそ対象に、どのようにして選んでもらうのか」という行動のデザインを行うことが、現代のマーケティングに非常に有用なのです。

行動デザイン(ナッジ)のポイント

行動デザインを実践しようと考える人は増えていますが、社内・クライアント・消費者に向けて行動デザインやナッジの理論を実践することは簡単ではありません。

行動デザインを実践する際、具体的に何に配慮すれば良いのでしょうか? 以下から解説します。

 人の選択肢を奪わないこと

1つめのポイントは、人の選択肢を奪わないことです。

例えば、ビュッフェ形式の社員食堂で健康的な食生活を推進したいと考えた場合「揚げ物やケーキの提供をやめる・価格を上げる」などの対策では人の選択肢を奪う形になってしまいます。

これでは、利用者に反感を持たせてしまう可能性があります。社員食堂を離脱してファーストフード店で食事をされるなど、せっかくの方針が裏目に出てしまう可能性もあるでしょう。

行動デザインでは、対象にストレスを与えることなく望む行動を引き出すことが重視されています。そのため、人の選択肢を奪うやり方は推奨されません。

 環境を整えること

行動デザインの2つめのポイントは、環境を整えることです。
選択肢を奪うことなく人の行動を引き出すためには、人がついつい望ましい行動をしてしまうような環境づくりが大切なのです。

先ほどの社員食堂の例だと、環境を整える具体的な案としては以下のようなものが考えられます。

・高カロリーなメニューの前に低カロリーなものを並べる
・ケーキの前にフルーツを並べる
・お皿のサイズを小さくする
・一品のサイズを小さくする/量を減らす

こういった施策を行うことで、食堂側の目標は、強い反感を感じさせることなく自然と達成できる可能性が高まるでしょう。

行動デザイン(ナッジ)と従来の手法との違い

行動デザインと従来手法との一番の違いは、基礎にしている学問が経済学か、行動経済学かという点です。

従来手法が「人間は完全合理的な経済人である」とする経済学を基にしているのに対し、行動デザインは「人間は限定合理的な感情人である」とする行動経済学を基にしています。

完全合理的という言葉からも分かる通り、経済学では人間が合理的に動くことを前提としています。

しかし実際は、時間がない・お金に余裕がない・心に余裕がない・情報が多くて判断できない など、常にさまざまな問題を抱えているため、人間は必ずしも合理的な選択ができるわけではありません。

社員食堂の例で言うと、ポスターで「健康な体を得るために、低カロリーな食事を心がけましょう」と啓発したとしても、社員の選ぶメニューはほとんど変化しないということです。

これは、無料にしても受診率の少ないがん検診や、今だに27.8%と高い成人男性の喫煙率からも分かります。

人間を合理的な生き物と捉えて行うマーケティングに限界が来ているからこそ、合理だけではない人間のより本質的な部分にアプローチし、望ましい行動を引き出せる力がいま求められているのです。

行動デザイン(ナッジ)の効果

行動デザインを実践してみたいけど、実際どの程度の効果があるのか分からず踏み出せないという方も多くいるでしょう。以下から行動デザイン(ナッジ)を使った事例を紹介します。

 がん検診の受診率を大きく向上させた事例

福井県高浜町には、行動デザインを活用して、検診の受診率が36%から53%まで向上した事例があります。

具体的な施策は以下の2点です。

・特定検診と、がん検診をセットにする
・日付を選ぶだけの申し込みフォームを採用する

この施策のポイントは「どちらの検診を受けるか、いつ受けるか」などの選択コストを最小限にし、日程を選ぶだけの形にしたことです。

人が検診に来ないという問題を「行くか否か、いつ行くのか…など、考えることがコストになっている」という課題に落とし込み、ボトルネックを正しく解消することで望ましい行動への道筋を設計した、素晴らしい事例ですね。

 酔客のホーム転落事故防止事例

JR西日本では、行動デザインを活用して、酔客の線路への転落事故を減少させた例があります。

具体的な施策は、以下の1点だけ。

・駅のホームに設置されたベンチを90度回転させること

この施策のポイントは、酔客の行動パターンを分析することで、最小のコストでの効果を生み出したこと。

酔客の事故と言えばホームの端を歩いて足を踏み外すことがイメージされがちですが、防犯カメラで酔客の事故の傾向を調べると、ベンチから立ち上がって歩き出し、そのまま線路に転落するパターンが6割を占めていたそうです。

ホームドアの設置費用は1駅当たり3億円程度。

しかし、ベンチの向きを変える工事の費用なら400万円ほどなので、費用面で考えてもこの施策は非常に魅力的だと言えます。

まだ統計にできるだけの数字がないとして明確な数字は公開されていませんが、JR西日本は「酔客の転落事故が減少していることは確か」と断言しているそう。

人の行動;を分析して予防するための環境の整備を行うことで、低予算での最大公約数的な効果を発揮した事例です。

弊社独自の体験デザインフレーム

弊社ABFLYWorks株式会社では、望ましい行動を導く行動のデザインを行っております。どのような理論を基にサービスの提供を行っているのか、以下から詳しく解説します。

 意識が変わっても、行動は変わらない

まず、今までは「意識を変えれば行動が変わる」という考えのもと、研修や教育が行われてきました。しかし、意識変革を試みても対象の行動が変わらず苦難する組織は多くあります。私たちは、その原因として以下の3ステップが深く関係すると考えています。

 

正しいことを言われていることが分かっていても、自分の体験をもって必要性が実感できていなければ、浸透させることは難しいもの。多くの人が、ステップ1でつまずいている印象です。

ステップ2に到達できず失敗してしまう大きな原因は、以下の2つだと考えています。

・浸透させたい意識・指標への理解が浅いこと
・行動への障壁が高く定着しないこと

企画者側が浸透させたい指標を唱えているだけで参加者がその必要性を体感できなければ、行動につながるわけがありません。

また、意図が正しく伝わっていても「自ら気づき行動しよう」「ヒューマンエラー0」など、コスト・難易度・抽象度が高い状態では、実践への障壁が高く行動が定着しないのです。

 「行動に直接アプローチする」ABFLYWorksの考え方

私たちの強みは、行動経済学をベースにした学術知と実践知を組み合わせ、人間観・行動観を徹底的に分析することで人の ”行動” を効果的に生み出すことです。

意識と行動には因果関係がないと定義することで、意識や満足度ではなく、行動をより直接的に変えるアプローチを提供しています。

 人の行動を直接的に変えるためのアプローチ対象とは?

私たちが行動のデザインをする際、アプローチの対象として考えているのは、意識・環境の2点です。

ただし、その中にもコンサルティングとクリエイティブという2つの観点を取り入れることを大切にしています。

意識面 = コンサルティング(望ましい意識の設定)+クリエイティブ(意識を変える仕掛け作り)
環境面 = コンサルティング(望ましい行動の設定)+ クリエイティブ(行動を変える仕掛け作り)

 

このように、課題を正しく特定して仕掛けを作るという流れが、人の望ましい行動を導く際に非常に重要なのです。

 体験を設計する「ABFLYフレーム」

上のような理論から、弊社ABFLYWorks株式会社では、人の行動や体験を設計するための「ABFLYフレーム」を制作・使用しています。このフレームワークのポイントは、1度行動を変えるだけでなく、良い行動を習慣化させることにあります。流れとしては、以下の通りです。

A(Attractive)→ つい動いてしまうような、魅力的な導線を設置
B(Behavior)→ 主体的な行動を引き出す
F(Feedback)→ 自分の心や周りの環境の良い変化を体感していただく
L(lookback)→ 深い意識変革を起こす
Y(Yourself)→ 課題を自分ゴト化し、自ら習慣化

上記の流れを繰り返し行うことで、より深い学びや習慣を得ることも可能です。

ありがたいことに 「行動をきっかけに深い意識変革を起こし、望ましい行動を習慣化させる」という、行動デザインを基にした新しいフレームワークは、企業や自治体の皆さまに興味を持っていただき、お取組みの機会をいただく良いきっかけになっています。

行動デザイン(ナッジ)の導入を、ぜひご検討ください

行動デザイン(ナッジ)の意味や今必要とされている理由、ナッジを取り入れる際のポイントなどを、事例も含めて詳しく解説しました。

企業や社会など全てに共通して言えることは 「成果とは望ましい行動の総和でできている」 ということです。

企業活動においては自社商品に共感して購買すること・社内においては目指す目標につながる行動そのもの。社会全体においても、環境を守るも壊すも、全て市民の行動によるものです。

弊社では、ABFLYフレームなど独自の体験技術の体系化だけでなく、実際のお取組みを基にした事例研究なども活発に行わせていただいております。

行動デザイン(ナッジ)など、対象の望ましい行動を引き出したいとお悩みの方はぜひ一度お話を伺わせてください。

 

  フォームから問い合わせる >

関連記事

コメント

この記事へのトラックバックはありません。

カテゴリー

TOP