新しい手法やツールの導入を提案したのに「新しい方法に切り替えるのが面倒」「今あるもので十分」と判断され、導入を断念したことはありませんか?
なかなか旧態依然な状況を変えられず、もどかしい思いを抱えている人も多いでしょう。このような場合「現状維持バイアス」という心理作用が変化の障壁になっている可能性があります。
この記事では、現状維持バイアスが発生する理由や、プロスペクト効果など類似効果との違いや克服方法を解説します。自分や周囲の現状維持バイアスに悩まされている方はぜひ参考にしてみてください。
現状維持バイアスとは?
現状維持バイアスは変化や未知のものを受け入れられず、現状維持を望む心理作用のことです。1988年にリチャード・ゼックハウザーとウィリアム・サミュエルソンによって提唱されました。
現状維持バイアスが起きるメカニズムには、行動経済学と心理学が深く関わっています。特に「合理的に考えたら新しいやり方を導入した方が良いのに、現状の安定を損失することに恐怖を感じるため拒否してしまう」心理は、行動経済学の理論の1つである「プロスペクト効果」という損失回避性と大きな関わりがあります。
日常に潜む現状維持バイアスの具体例
現状維持バイアスは、身近な場面でたくさん発生しています。ここからは、日常に潜む現状維持バイアスの具体例を見ていきましょう。
いつも同じ飲食店を選ぶ
つい行きつけの飲食店ばかりに通ってしまうのは「繰り返し利用しているものを好きになってしまう」心理効果と「今の飲食店である程度満足しているので、お店を変えて失敗したくない」心理によって強い現状維持バイアスが働いている証拠です。
同じように、いつも同じメニューを注文するのも、現状維持バイアスがはたらいている状態だと考えられます。
転職を決意できない
ブラック企業など、職場の待遇が悪いと分かっているのになかなか転職できないのも、強い現状維持バイアスがかかっている状態です。
チャンスがあれば転職したいと考えているハズなのに、いま自分が生活している環境を失うことに恐怖を感じ、転職に踏み切れなくなってしまいます。
優れた新商品がユーザーに受け入れられない
マーケティング担当者が入念な調査を行い、試飲・試食まで行って優れた新商品を販売したのに、結局元の商品の方が売れた、というケースはよくあります。
これにも「今の商品に慣れ親しんでいるので、わざわざ新しい商品に挑戦して損をしたくない」という現状維持バイアスが深く関係しています。
恋人と別れたいのに別れられない
現状維持バイアスは「DV彼氏と別れたいが別れを切り出したら何をされるか分からないので言い出せない」「今の恋人に愛情はないが次の出会いが見つからないかもしれないのでキープしている」など、恋愛の場面にもはたらきます。
本音では別れたいはずなのに「我慢して付き合い続ければ今よりも悪化しないはず」「恋人がいる状態を失うことに恐怖を感じる」という現状維持バイアスから恋人との付き合いをやめられなくなってしまうのです。
現状維持バイアスが起きる理由
身の回りをより良い状態にしようと働きかけているのに現状維持バイアスによってなかなか状況を好転できず、もどかしい想いを抱えている人は多くいます。
では、現状維持バイアスはなぜ発生するのでしょうか?ここからは、行動経済学と心理学の観点から現状維持バイアスが起きる理由を解説します。
失敗や損失を回避したいから
人には「特をすることよりも、とにかく失敗や損失を避けたい」と考える傾向があります。
例えば「100%の確率で10万円か、50%の確率で20万円もらえる」という選択肢が提示された場合、期待値は全く同じはずですが、ほとんどの人はお金をもらえないリスクを回避したいと考え前者を選ぶのです。行動経済学では、この心理作用を「プロスペクト理論」と呼びます。
恋愛でも仕事でも、現状を変化させることは大きなメリットがあるはずですが、同時に現状の安定を失うというデメリットもあります。そうなると、ほとんどの人はデメリットを回避したいという心理が強く働き、現状を維持する方を選んでしまうのです。
慣れ親しんだものを選ぶ習性があるから
人には、つい慣れ親しんだものを選んでしまうため、現状を変化させにくい習性があります。これは、もともと興味のなかった物・人でも何度も繰り返し接触することで興味を持つようになってしまう「単純接触効果」という心理現象が深く関わっています。
また、人の意思決定は最初に設定された初期設定に強く影響される「デフォルト効果」や、自分が持っているモノや環境に高い価値を感じて手放すことに抵抗を感じる「保有効果」などの心理現象も、人がつい慣れ親しんだものを選んでしまうことに関係しています。
こういった心理現象があるからこそ、特にマーケティング施策を行う場合は、新しい施策にユーザーが抵抗を覚えないよう、現状維持バイアスをはじめとする人の心理を読み解き、対策することが非常に大切です。
現状維持バイアスを克服する5つの方法
現状維持バイアスの作用は現状の安定した状態を続けたい場合は役に立ちますが、マーケティング施策の実行や新しいツールの導入、恋愛での状況改善などのシーンにおいてはマイナスな影響が出ることもあります。現状維持バイアスを克服するには、どうしたら良いのでしょうか? ここからは、現状維持バイアスの克服方法を解説します。
現状維持バイアスがかかっていることを認識する
現状維持バイアスを克服するためには、まずバイアスの存在を認識することが大切です。例えば会社で新しいツールの導入を提案した時に、ろくに検討せずに「今のツールで十分」と言われたり、そもそも話を聞いてもらえなかったりする場合は、相手に強い現状維持バイアスがかかっている可能性があります。
そのような場合は、理性で判断しているのではなく現状維持バイアスに影響されている可能性があると認識してもらい、冷静な判断ができる土壌を作ることが必要です。
ただし「現状維持バイアスがかかっていませんか?」と指摘しても、相手がすぐ理解できなかったり、逆に反感を買う可能性もあります。
「○○で困っていませんか?」と課題を引きだしたり、提案の中で「このツールを導入すれば1タスクあたり5分作業時間を短くできると思いますが、ちなみに今どこで引っかかってますか?」など現状を変えたくないという抵抗感だけでツールの導入を拒否していると気づかせる問いかけをしたりしてみましょう。
深く考えてもらうことで、相手に現状維持バイアスの存在を認識してもらいながら、冷静な判断を仰ぐことができます。
現状維持するのは損だと認識する
そもそも「損をしたくない」と感じるプロスペクト効果が強く作用しているので「現状維持をするのは損だ」と認識を修正することが現状維持バイアスの克服に有用です。
例えば「このままブラック企業で働いたら同年代の大卒と比べて年収が150万円少なくなる」「今のツールを使い続けると、1ヶ月で30時間損をする」など、相手が最も現状を変えたくなるような価値判断の軸を見つけてアプローチすると、より高い効果を生むことができます。
第三者に話を整理してもらう
第三者に話を整理してもらうことで、現状維持バイアスを克服して話をスムーズに進められることもあります。特に、上司・先輩・医師など、その分野で権威のある人や専門知識のある人が介入すると情報に対しての信頼度が高まり現状維持バイアスを崩しやすくなります。
また、これはマーケティング施策から恋愛まで全てに通じる話ですが、第三者に相談する時は自分や対象が現状維持バイアスにかかっている可能性があることをあらかじめ伝えておきましょう。先に話を通すことで、その前提を踏まえた意見をもらえるので、より効果的な話し合いが行えます。
データを使って客観的な判断を行う
数字やデータを使って現状を変えることのメリットを説明すると、現状維持バイアス克服の可能性が高まります。これは、相手が客観的かつ冷静な判断を行えるようになるからです。
ツールの導入に関する話なら作業時間・作業工数・料金などのビフォーアフターを提示、お菓子のマーケティング施策なら甘み/辛みなど味の魅力・試食時の評価・成分の含有率など、消費者に分かりやすい指標の提示をすると良いでしょう。
恋愛や職場の人間関係など、具体的な指標を出すことが難しい場合はメリット・デメリットとビフォアフター像をできる限り具体的に書き出してみてください。
試用期間を設ける
今までのやり方を急に全て変えると、どうしても強い抵抗が生まれてしまいます。 特に新しいツールの導入時などは、試用期間やデモンストレーションを取り入れて徐々に慣らすことで、現状維持バイアスを克服できる可能性が高いです。
弊社は、人の現状維持バイアスを崩す会社です
現状維持バイアスの意味やバイアスがかかってしまう原因、克服方法を解説しました。現状維持バイアスはどんな人にも少なからず作用するので、新しいことを始めようとすると抵抗が生まれるのは当たり前です。自分や会社の現状を変えたいと強く思っているのであれば、上で紹介した克服方法をぜひ実践してみてください。
弊社が主軸にしている事業は、人の体験や行動を変える「体験デザイン事業」です。
例えば社員への理念浸透・スタッフのオペレーションスキルの向上・ユーザーの購買行動促進などの施策を行うためには、対象の現状維持バイアスを崩して望ましい行動を起こし、さらにそれを継続する所まで設計する必要があります。目標を達成する過程で必ず現状維持バイアスを崩す必要があるため「私たちは人の現状維持バイアスを崩すプロである」と言えます。
人の現状維持バイアスを崩したり、行動・体験を変革したいとお悩みの方には無料カウンセリングも受け付けております。ぜひ一度フォームからご連絡ください。
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