コラム

正常性バイアスの意味とは?災害時の例や仕事にも使える対策方法を紹介


「 日常生活やビジネスのシーンで”正常性バイアス”という言葉を耳にしたけれど、意味がよく分からない…」という人もいるでしょう。この記事では。正常性バイアスの意味を簡単に説明します。

同調性バイアスとの違いや正常性バイアスが働いた災害事例だけでなく、企業に潜む危険性や詳しい対策方法も紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。

正常性バイアスとは?

正常性バイアスとは、予期しない状況に直面したときにも「これは正常の範囲内だ」と認識することで心の平穏を保つメカニズムのことです。

日常生活での小さなトラブルや環境の変化があっても、疲弊しすぎずに過ごせるのは、この「正常性バイアス」のおかげです。

しかし、緊急事態が発生した時もそれを異常なことだと認識できなくなってしまうため、台風で大雨が降っていても「この程度なら平気だろう」と思いこんだり、下水が氾濫しているのに「3㎝程度ならすぐに収まるだろう」と考えて避難しなかったりすることで、逃げ遅れてしまうようなリスクもあります。

正常性バイアスと同調性バイアスの違い

同調性バイアスは、正常性バイアスと混同されやすい心理作用ですが、中身は全く違います。

・同調性バイアス:集団の中にいるとついつい他の人と同じ行動をとってしまう心理作用
・正常性バイアス:予期しない状況に直面した時も「正常だ」と判断する心理作用

正常性バイアスのメリット・デメリット

正常性バイアスのはたらきには、大きなメリットとデメリットがあります。ここからは、正常性バイアスのメリット・デメリットを詳しくみていきましょう。

 【メリット】心の平穏を守る

正常性バイアスのメリットは、環境の変化や多少のトラブルが起こったときでも「いつもと変わりない」と捉えられることです。

現代社会ではさまざまな変化やトラブルが日々起こり続けています。日々のできごとに大きく取り乱したり、過度に疲弊したりせずに生活できるという点で正常性バイアスは非常に大切な心理作用だと言えます。

 【デメリット】危険を認識できない

正常性バイアスのデメリットは、強くはたらくと、火事・津波・倒産など本当に危険なことが迫っている時も「正常の範囲内だろう」と判断して逃げ遅れてしまう危険性があることです。実際、避難誘導をするべき人たちに強い正常性バイアスがはたらいたことが原因で、被害が拡大した災害も多いと言われています。

正常性バイアスは私たちにとって大切な心理作用ではありますが、非常事態が発生した時には正しい判断ができるよう「強く作用しすぎていないか」「客観的に考えて、どう行動するべきなのか」考える習慣を付けるなどして上手に付き合うことが大切です。

正常性バイアスが働いた良い事例・悪い事例

正常性バイアスのはたらきを理解しても、具体的にどんな場面で、どのように作用するのかイメージできないと対策することは難しいですね。ここからは、正常性バイアスが働いた良い事例・悪い事例を見ていきましょう。

 【良い事例】東日本大震災での避難行動

平成23年3月11日に発生した東日本大震災では、たくさんの人が逃げ遅れて犠牲になりました。そんな中岩手県釜石市では、3,000人近い小中学生がほぼ全員避難に成功しました。

これは、大地震が発生した直後、グラウンドで部活をしていた釜石東中学校の生徒が大津波の危険を想定して「津波が来るぞ!逃げろ!」と周囲に声かけを行いながら避難したことで、中学生を見た周囲の小学校の生徒もスムーズに避難できたからです。また、最初の避難場所が崩壊寸前になった際、更に高台に避難するように提案し、実際に成功しています。

このできごとは「釜石の奇跡」と呼ばれています。しかし、決して偶然おきた奇跡ではありません。

東日本大震災以前から津波被害の危険が叫ばれていた釜石市の小中学校では、日頃から避難訓練や防災教育に積極的に取り組んでおり、災害時には「想定にとらわれるな」「率先的避難者になれ」「その状況下での最善の行動をとれ」という教育が徹底されていました

これはまさに、正常性バイアスにとらわれず正しい状況判断を行うための教育が災害対策に大きく貢献した例だと言えます。

 【悪い事例】御嶽山噴火の噴火

平成26年09月27日に発生した御嶽山噴火は、58名の死者と5人の行方不明者が発生する大きな火山災害になりました。

紅葉シーズン真っ盛り・土曜日・天気が良い・お昼時 などの条件が重なって山頂付近に多くの登山客がいたということもありますが、ここまで多くの犠牲者が出てしまった要因は大きく分けて2つあると言われています。1つが、気象庁が火山性地震の増加のリスクを一般人に分かりやすいように情報提供していなかったこと。もう1つが、正常性バイアスです。

実は、御嶽山噴火の犠牲になった方の多くが噴火後も避難せず火口付近に留まって噴火の様子を撮影していたことが分かっています。正常性バイアスによって、噴火後も「噴火しているが、自分のいる場所は大丈夫だろう」と判断し、危機意識を持てなかったために逃げ遅れてしまったのです。

 【悪い事例】コロナウイルスへの対策

2020年の1月から、世界中でコロナウイルス感染の脅威が叫ばれていました。外出自粛などの規制も出始めた頃に大きな話題になったのが「コロナウイルス感染の疑いがある女性が東京から山梨に帰省した」ニュースです。陽性反応が出る数日前に一緒に行動した友人にも感染していたことが発覚し、当時は深刻な状況になりました。

朝日新聞や産経新聞の記事から、この女性は帰省前から嗅覚と味覚に異常があり、コロナウイルスの検査結果が陽性だったことも知った上で帰省に踏み切ったことが分かっています。

このような状況の中で帰省に踏み切ったのは「数日くらい帰省しても問題にならないだろう」「自分や自分の周りは感染しないだろう」という正常性バイアスがはたらいた結果だと予想できます。

企業に潜む正常性バイアスの危険

正常性バイアスによって危険が生じる可能性があるのは、災害時だけではありません。企業も、正常な判断ができなくなることで、大きな不利益や損害を出してしまう可能性があります。ここでは、企業に潜む正常性バイアスの危険性を見ていきましょう。

 今ある問題を改善できない

正常性バイアスがかかっている企業の分かりやすい例がブラック企業です。ブラック企業では「この程度の労働環境なら問題ないだろう」「自分の会社から自殺者は出ないだろう」という正常性バイアスがはたらいた結果、本来なら明らかに問題がある残業時間の多さや退職率の高さなどの問題を見つけられなくなってしまいます問題を見つけることができないので、もちろん改善もできません

工事現場での安全管理も、正常性バイアスがかかりやすい状況の1つです。安全のためヘルメットの着用が義務づけられていても「事故なんて起きないだろう」と、着用を怠ってしまうケースもあります。また、そういった油断が重なった結果、本当に事故が発生する可能性もあります。

 起こりえる危険を回避できない

正常性バイアスがはたらくことで、企業に起こり得る可能性を事前に見抜いたり、回避したりできなくなる可能性もあります。例えば「大口取引先との契約が何個か終了したが、自分の会社に限って倒産はしないだろう」「自分の会社に限って不祥事は発生しないだろう」と考えた結果、危険の片鱗を見逃し続けて会社が倒産してしまうなどです。

中小企業庁の「小規模企業白書」によると、起業後の企業生存率は1年で95.3%・2年で91.5%・3年で88.1%・4年で84.8%・5年で81.7%だと言われています。諸外国に比べると生存率が高い方ではありますが、それでも、2021年に新しく設立された法人14万4,622社の内、2万6,465社は5年後には存在しないという厳しさです。

特に近年はコロナウイルスによるライフスタイルの変化や、インターネット・Aiによる技術革新が急激に進んでいます。ビジネスの現場でも、今後はますます柔軟かつ迅速な対応が求められるようになるでしょう。そのため、正常性バイアスをはじめとするバイアスに惑わされず、正しい判断をし続ける能力が今後は強く求められます。

正常性バイアスの対処法

正常性バイアスには良い面もあるものの、デメリットも多くあります。特に災害時や企業活動など、大切な局面ではバイアスに惑わされず判断したいものです。では、どうすれば正常性バイアスに対処できるのでしょうか? 詳しくみていきましょう。

 正常性バイアスの存在を認識する

正常性バイアスに強くかからないためには、まず正常性バイアスの存在を認識することが大切です。非常ベルが鳴っている・地震が起きている・大口取引先との契約が何件も切れた などの非常事態に直面したとき「まぁ大丈夫だろう」と楽観的に考えるのではなく「客観的に見て、本当に大丈夫なのだろうか?正常性バイアスにかかっているのではないだろうか?」と冷静な視点で捉えることができます。

 生じた状況に対する行動をあらかじめ決めておく

平常時に「この状況になったら、この行動をする」という行動指針を立てておくと緊急時に正常性バイアスがはたらきにくくなり、平常心で正しいアクションを起こすことができます。「震度6の地震が発生したらどうするか」「シンギュラリティが起きたら自分の会社は存続できるのか」など一見極端に思えるようなことまで幅広く想定しておくと、緊急事態の発生前後に正しく行動できるでしょう。

 行動のタイミングを逃さない

「周りの人が誰も行動していなかったとしても、率先して行動する」という強い意識を持つことも、正常性バイアスへの対策に有効です。

「周りが行動していないから大丈夫だろう」と考えてしまうのは、既に正常性バイアスや同調性バイアスにかかっている証拠。危険性に気づく頃には手遅れになっている可能性が高いでしょう。

そもそも普段から普通の生活をしている人が緊急時に正常な判断を下すことはほぼ不可能です。「自分たちが正常性バイアスにかかっているかもしれない」ことを考慮した上で、自分が行動するべきだと思ったタイミングできちんと行動することが重要です。

 常に”課題がないか”探す習慣を作る

「自分の周りは大丈夫だろう」と思考停止することが、非常事態を認識できなくなってしまう理由の1つ。だからこそ、平常時から「身の回りに課題がないか」探す習慣を作ることが正常性バイアスへの対策になります。

ニュースで見かけた事件や知り合いのトラブルなど、自分に直接関係ないことでも「自分だったらどうするか」考えたり、会社の環境や人間関係を常に観察して「何か課題を抱えていないか」考察してみたりすることが大切です。既に起きている問題だけでなく近い未来に起こり得る問題まで見据えて対策を想定できるようになると、非常事態が起きた時にも正常性バイアスにかかりにくくなります

 まずは正常性バイアスの認識を

正常性バイアスは、災害時だけでなく個人や企業にも生じる心理作用です。日常生活を心穏やかに過ごせるというメリットもある一方で、知識がないまま放置すると深刻な問題を引き起こす可能性もあります。

誰にでもある心理作用なので完全に避けることはできませんが、正常性バイアスの存在を知って対策すれば、事件・事故や災害などの緊急事態が起きた時も正しく合理的な判断を行うことができるでしょう。

弊社ABFLYWorks株式会社は「意識と環境の2面を変えることで、人の行動を変革する」体験デザイン技術の提供を行う会社です。意識を変える段階で、現状維持バイアスや正常性バイアスをはじめとするバイアスの対策も行っています。

「自分や周囲のバイアスを克服したい」「バイアスを克服して行動を変えたい」とお悩みの方は、まずは無料でのご相談も受け付けておりますので、お問い合わせください。

 

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